『魔女の宅急便』において、音楽演出(音楽プロデューサー)としてクレジットされた高畑勲の存在こそが、この選曲劇の最大のキーマンでした。高畑は映画音楽に対して極めて論理的かつ厳格な美学を持っており、劇伴を担当した久石譲のオーケストレーションと主題歌の役割分担を徹底的に分析していました。
高畑は、荒井由実が1970年代半ばの十代後半から二十代前半にかけて生み出した楽曲に漂う「乾いた哀愁と無垢な瑞々しさ」に着目しました。特に1975年発表のシングル「ルージュの伝言」は、歌詞の内容こそ浮気した恋人への悪戯めいた抗議という大人のドラマでありながら、曲調は1950〜60年代のアメリカン・ポップスを思わせる軽快なオールディーズ調に仕立てられています。
「キキが親の元を飛び立つ瞬間に聴いているラジオの曲」としてこのナンバーを当てはめたとき、映像と音楽の間に奇跡的なシナジーが生まれました。大人の世界に憧れつつも中身はまだ子供であるキキのアンバランスな背伸び感が、ポップなメロディと歌詞のギャップによって見事に表現されたのです。
Tags: