布帛(織物)と異なり、ニット(編物)は1本の連続した糸が輪(ループ)を作りながら連続して絡み合う構造を持っています。表面に飛び出してしまった毛糸は、外部からの摩擦や引っ掛けによって、本来そこにあるべきループが外側へ極端に引き出された状態に過ぎません。つまり、糸が余分に増えたわけでも、切れてしまったわけでもないのです。
ここでハサミを入れてしまうと、ループを形成していた糸そのものが切断されます。歩行や着脱による伸縮の負荷がかかるたび、切断箇所を起点として結び目が次々とほどけ、ストッキングの伝線と同じ現象が発生します。直径数ミリの引っ掛かりが、数回の着用で数センチ大の明確な穴あきへと悪化する理由は、この編み組織の破壊にあります。
繊維のプロフェッショナルが口を揃えて「ハサミNG」を警告するのは、切断された糸の修復には専門の掛けはぎ技術が必要となり、数千円規模のコストがかかってしまうためです。糸が切れていない限り、元の位置へ戻すことは物理的に極めて容易です。
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