1980年代の高度経済成長期、社員旅行や歓楽街として栄華を極めた熱海温泉は、バブル崩壊とともに長期の構造的低迷に直面しました。廃業した巨大ホテル群が並ぶ風景は「失われた時代」の典型と揶揄された時期もあります。しかし、2010年代半ばから官民協働で進められたリノベーションまちづくりと、首都圏から新幹線で最短33分という圧倒的な近接性が再評価され始めました。
転換点となったのは、古い街並みの残滓を単に排除するのではなく、「昭和レトロ」の風情をノスタルジックな価値として再定義したことです。同時に、自然地形のダイナミズムを活かしたリブランディングが進行しました。平坦なリゾート地にはない急傾斜のすり鉢状地形は、どこを切り取っても相模湾のコバルトブルーが視界に入る天然の舞台装置です。この地形的優位性に「花」と「アート」を掛け合わせたことで、週末の滞在を好む若い世代の女子旅や感度の高いクリエイター層が急増しました。熱海は今や、単なる温泉療養地ではなく、五感を刺激するビジュアルデスティネーションへと進化を遂げています。
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