1970年代初頭にアイドルとしてデビューしたアン・ルイスは、『グッド・バイ・マイ・ラブ』に代表される甘く切ないバラードで確固たる地位を築いていました。しかし、1980年代に入ると彼女の音楽的野心は大きく舵を切ります。私生活での結婚・出産、そして自らのルーツである洋楽ロックへの傾倒が、彼女を既存のアイドル歌手の枠組みから解き放ちました。
当時の歌謡界は、松田聖子や中森明菜を中心とするアイドル全盛期であり、女性歌手の多くは男性作家が描く「待つ女」や「傷つく女」を演じることが求められていました。その硬直したシステムに風穴を開けたのが、アン・ルイス自身がディレクションに関わった一連のロックアプローチです。ピンクやブロンドに染め上げた奇抜なヘアスタイル、レザーとスタッズを基調としたハードなパンクファッションは、従来の「清楚な女性歌手」の概念を根底から打ち砕きました。
この転換期において誕生したのが、哀愁を帯びたキャッチーなメロディを過激なディスコ・ビートとディストーションギターで武装させた「歌謡ロック」でした。アン・ルイスのハスキーでありながら圧倒的な伸びを持つ歌声は、激しいバンドサウンドに埋もれることなく、むしろオケをねじ伏せるほどの存在感を放ち、シーンに唯一無二のポジションを確立したのです。
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